会長挨拶「未来を創る起点となる電気化学会」

本会2025年度会長
AGC株式会社
代表取締役
専務執行役員CTO
社会情勢の急激な変化、地球環境の持続可能性が急務な昨今において、科学の発展や産業における技術革新の重要性は飛躍的に高まっています。希望ある未来社会を創造するためには、新たなイノベーションとそのためのさらなる産官学連携が不可欠です。
電気化学技術は、特に、再生可能エネルギー分野において重要な役割を担っています。新エネルギーの生産・運搬・貯蔵・利用のシステムにおいて、水素をはじめとするエネルギーキャリアが関わる電極反応の効率化、貯蔵エネルギーの高密度化・長寿命化・安全性能の向上が要となります。この電気化学技術がもたらすイノベーションは、モビリティの電動化やエネルギーの脱炭素化を促進する起点となる可能性があります。また、ライフサイエンス分野においても、生体電気化学やバイオセンサー技術など、新たな分野を切り開いていくことが期待されています。電気化学の応用範囲は無限で、未来の産業社会における要といっても過言ではありません。
一方、公共機関の調査によると、日本の科学技術はその論文数評価においてグローバル順位が低下しており、人口100万人あたりの博士号取得者数や民間の研究者数も横ばいの状況です。国内企業の大学へのR&D出資額・比率は主要先進国と比較して少なく、研究開発投資の不足が指摘されています。スタートアップの数は増加しているものの、海外と比較して発展の余地があります。イノベーション促進のためには、さらなる産官学連携の強化が重要です。
電気化学は、基礎科学から応用までを切れ目なく包含し、社会実装に最も近い技術分野の一つです。産官学連携の触媒として機能し、研究にとどまることなく事業につなげることで最先端技術の発展に貢献することが、電気化学会の重要な役割と言えるでしょう。また、世界から優秀な研究者が切磋琢磨し、人材が育つ場となることも電気化学会のもう一つの役割です。科学技術の発展がイノベーションを起こし、より良い未来を構築する正のスパイラルの加速が求められます。
電気化学会は、1933年発足以来、論文誌、大会、ホームページ、講演会、セミナー、書籍を通じてその役割を果たしており、インパクトファクターも向上しています。会員数は現在4,000名に迫り、女性研究者の比率も徐々に上昇しています。
昨年も、PRiME2024(Pacific Rim Meeting on Electrochemical and Solid-State Science, Hawaii, USA)が開催され、グローバルに研究者が集い、活発に若手研究者の研究発表、国際交流が行われました。
100周年を迎える2033年を見据え、環境問題、資源不足、エネルギー問題、人口減少など、直面する多くの課題に対処するために、AI・DX技術の進化や新たな分野の開拓などを通じて、科学技術力の牽引が望まれます。一層の産官学連携に積極的に取り組むため、企業での事業経営、研究開発、新事業立ち上げなどの経験を活かし、会員の皆様とともに、より良い運営につなげ、イノベーションを起こす起点となるよう電気化学学会を盛り上げていく所存です。